下手くそな恋を泣きながら
「心配かけて悪かった。
もう大丈夫・・・
ああ、それより・・・」
奥さんのこと、羨ましいなんて思わない。
その電話の声を聞きながら部屋の窓の外を眺めた。
来たときは、寂れて淋しく見えた町並み。
先生の笑顔が戻った途端、寂れた町並みは、昔ながらの温かい町並みへと変わっていた。
「鏡みたい・・・」
感情一つでこんなにも世界が違って見える。
「彩葉、妻が車で迎えにきてくれる。
着くのは遅い時間になるだろうから、それまでこの町を探検しよう?」
奥さんとの電話を終えた先生は、すっかり先生らしく戻っていた。
「彩葉のおかげで、自分のやるべき事が見つかった。」
そう言い、この小さな部屋を飛び出すと、観光名所も何もないこの町を歩き出す。
二人で、地元の人に声をかけながら
何も情報がなかったゼロからのスタートで勝手に自分達で名所を作り出す。
もう、この手が繋がる事がなくても
今、こうして一緒にいることは、ちゃんと大切な思い出に変わる。
あの日、気持ちを伝えてしまっていたら、きっとこんな風にはならなかった。
後悔でしかなかったあの日のわがままな私の事も
許してあげれそう。