下手くそな恋を泣きながら


「心配かけて悪かった。

もう大丈夫・・・

ああ、それより・・・」


奥さんのこと、羨ましいなんて思わない。

その電話の声を聞きながら部屋の窓の外を眺めた。

来たときは、寂れて淋しく見えた町並み。

先生の笑顔が戻った途端、寂れた町並みは、昔ながらの温かい町並みへと変わっていた。

「鏡みたい・・・」

感情一つでこんなにも世界が違って見える。


「彩葉、妻が車で迎えにきてくれる。

着くのは遅い時間になるだろうから、それまでこの町を探検しよう?」

奥さんとの電話を終えた先生は、すっかり先生らしく戻っていた。


「彩葉のおかげで、自分のやるべき事が見つかった。」

そう言い、この小さな部屋を飛び出すと、観光名所も何もないこの町を歩き出す。

二人で、地元の人に声をかけながら

何も情報がなかったゼロからのスタートで勝手に自分達で名所を作り出す。

もう、この手が繋がる事がなくても

今、こうして一緒にいることは、ちゃんと大切な思い出に変わる。

あの日、気持ちを伝えてしまっていたら、きっとこんな風にはならなかった。


後悔でしかなかったあの日のわがままな私の事も

許してあげれそう。



< 132 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop