下手くそな恋を泣きながら
「今日は気分転換に付き合ってくれてありがとな。」
陽もとっぷり沈んで
民宿の小さな部屋に戻ってきた。
「私はいつでも先生の味方だよ?
忘れないでね?」
「忘れるわけないさ。
きっと今回の事件もこれからが本番だ。
もしもまた、挫けそうになった時は頼むよ」と常談混じりに笑う。
少ない荷物を持って
民宿の外に出ると程無くして、一台のワゴン車が停まり、中から綺麗な女性が出てきた。
「・・・何も言わずに出てくんだもん。心配したわよ・・・」
怒りながらも先生の姿をみて安堵したように笑う彼女は、結婚式の日に初めて見た、先生の奥さんだ。
「こちらは?」
私に気付いて、首を傾げる奥さん。
先生は私を奥さんの前に突きだすと
歯をみせてとびきりの笑顔を見せた。
「俺の自慢の教え子っっ!!」
その言葉に、まるで全てを理解したように、私に頭を下げた奥さんは
「主人を笑顔にしていただき、お世話になり、ありがとうございます」と、深々と私なんかに頭を下げるから
こんな女性に敵うわけがないと
清々しささえ覚えた。
「疲れただろ?ありがとな。」
奥さんにお礼を言った先生は運転席に乗り込むと「彩葉も乗りなさい」と声をかけてくれた。
過ごし気まずくて、奥さんの顔色を伺うと「これくらいのお礼しかできなくて・・・」と後部席のドアを開けてくれる。