下手くそな恋を泣きながら



「森山、さっきお前、何を言おうとしていた?」

車に乗り込むなり、いつもの〃部長〃の顔になっていた部長の横顔をちらりと見た私は、部長の言いたいことがよく分からずに首を傾げた。


「何がですか?」

「何がじゃないだろ・・・俺が声をかける前だよ。

お前・・・春坂に何を言おうとしていた?」

私の心を見透かしているような部長の言葉に息を飲んだ。


さっきまで辺りを淡く包んでいた夕陽はすっかり姿を隠して、夜の闇にちらほら街灯が流れる車窓。


私は俯いたまま、何も答えれなかった。

何を答えていいのか分からなかった。

忘れたはずの恋心に理性を失っていた・・・?

忘れたふりをしていた恋心に気付いてしまって動揺していた・・・?


きっと、どちらも正解だ。


私の心は枯れてなんかなかった。

私の心はちゃんと好きな人にあんなにも鮮明に反応した。


「知ってるんだろ?春坂は既婚者だぞ?」


「知ってます・・・」

「知ってるなら気持ちを隠せよ。

あんな顔を見せてたら誰でも気付く。

子供じゃないんだから・・・」


子供じゃない・・・

さっきは私を馬鹿にしたように子供と言ったくせに。


歯痒くて

唇を噛み締めた。


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