下手くそな恋を泣きながら
「そうだ、森山の宿泊先はどこだ?」
部長のさっきの言葉が正論なのは分かってる。
分かりたくないだけだ。
不貞腐れた態度をとって、また子供扱いされないために、少しだけ腹立つ気持ちを抑えて、ホテルの名前を告げた。
「なんだよ・・・すごいな」ホテルの名前を聞いた途端、呟くうに笑った槙原部長。
「何が・・・凄いんですか?」
「同じなんだよ。俺の宿泊先と」
「へっ?」
「二度あることは三度あるっていうけど、こんなに偶然が重なるなんてこと、本当にあるんだな。」
感心したように笑ったその顔は、もうプライベート使用なのか、さっきまでの少し厳しい雰囲気は砕けていた。
「この風船がなかったら、きっとこんなにも偶然は起こらなかったと思います」
車の後部席で、役目を果たしたように萎みかけてる風船を振り返った。
「それって、あの公園から近い式場から飛ばされた風船だろ?」
「追いかけて来たらたまたま部長と会ったんです。」
「追いかけてって・・・」
くすくす笑う部長。
「言わなくても部長がガキ扱いしてることはわかってますからいーですよ。」
そっぽを向くと丁度、車はホテルの地下駐車場に入った。