下手くそな恋を泣きながら
だって
今まで5年間同じ場所で働いて
一週間7日あるうちの5日間は毎日顔を合わせていても
一度も反応しなかったこの心が
今になって突然、部長に反応するわけがない。
「閉まりかけたドアに手なんかだしたら危ないことくらい幼稚園児でも分かるぞ?」
呆れたように肩を落としながら
それでも、部長も動揺しているのか
私を受け止めたまま離さない腕。
「お、・・・お礼が言いたかったんです」
「・・・お礼?」
「今日のお礼です。」
「そんなの・・・俺も暇だったから。
それに結局は俺の思い出観光みたいなものだったしな。お礼を言われる理由はないよ。」
それでも
たった一言、ありがとうと伝えたかった。
本当にそれだけのつもりだった。
お礼を伝えたら自分の部屋に戻るつもりだった。
それなのに
「あっ!!スゲー!!抱き合ってる!!ちゅうするとこなんだぜきっと!!」
突然、近くの部屋の扉が開いて、小学校低学年くらいの子供が私達を指差したから
慌てて体を離した。
「ちゅうしないのー?」
子供の野次に思わず頬が熱くなる。
「とりあえず俺の部屋に来いっ!!」
引きずられるように部長の部屋へ来ると、昼間同様に引き返すタイミングを失って、気不味い雰囲気の中、ベッドの端に二人で肩を並べて座っていた。