下手くそな恋を泣きながら


時計は6時を過ぎていた。

部署の扉を少しだけ開けて中を覗きこむと、予想通り他の誰もいない。

「部長・・・お疲れ様です。」

プレゼントの入った紙袋を抱えて声をかけると、部長はパソコン画面を見たまま声だけ返事をくれた。


「森山か?どうした?」

振り返りもしないで仕事に集中。

これがいつもの部長と分かっていても、あの優しさを知ってしまったら淋しさを感じなくもない。


でも、これが、私がずっと知っていた部長らしい部長なんだ。

本人は仕事に集中してるだけで、少し冷たい。なんて周りに思われてるのを知らないんだろう。

でも、部長が優しい人だと皆が知ってるのも勿体無い気がする。


「この間のお礼です。ここに置いておきますね」

「ああ、ありがと」

やっぱり私を見ることもない。


紙袋を置いて部屋を出る。

去り際に振り返って見たけれど、一度もこちらを見ない部長。


私を知ってる部長はそういう人ですけどね。

なんとなく、どうやって渡そうか。なんてちょっぴり緊張した時間を勿体無く感じてしまう。

別に振り返ってくれなかったのが淋しいわけじゃないけれど・・・

もうちょっと何かしらの反応があっても良いんじゃない?

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