下手くそな恋を泣きながら


「けっこう時間かけて選んだんだけどなぁ・・・」


紳士服売り場なんて初めての体験だったよ。


誰も乗ってないエレベータに乗り込んだ時、ふと扉の外を見ると、駆け寄ってくる部長の姿が見えて、慌てて〃開〃のボタンを押してエレベータから降りた。

「森山っ、これ・・・」

部長の手には私の渡した紙袋。

「これ、どうしたんだ⁉」

あからさまに驚いた表情の部長を見て、思わず吹き出して笑ってしまった。

静かなエレベータホールに響いた私の笑い声。

「どうしたもこうしたも、台無しにしてしまったワイシャツの代わりと、お礼も兼ねて。」

まさか追いかけてくるなんておもわなかったから

まさかそんなに驚いてくれるなんて思わなかったから

その新鮮さが面白かった。


「気にするなって言っただろ?」

「それでも。私は気にするんです」


参ったように頭を抱える部長。

もしかして、女性からのプレゼントは困るということなのかな・・・?

彼女がいたら・・・

そんなもんなのかな・・・

「要らなかったら捨てちゃって下さいね」

目の前で捨てられるのは嫌だけど、困らせたかったわけじゃないし。

それに・・・渡せただけで、良かったから。


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