下手くそな恋を泣きながら
「捨てるわけ無いけど・・・」
困ったような表情は変わらない。
それならなんだと言うのか、不思議に思い、その顔を覗きこむと、パッと視線を外される。
その頬が少し赤いようにも見えて
それが不思議で追いかけるようにもう一度その顔を覗きこんで見た。
もしかして・・・照れてる?
「こういうの苦手なんだよ」
「何が・・・ですか?」
「・・・恥ずかしいから」
予想だにしない言葉。
部長の口からそんな言葉を聞く日がくるなんて・・・
思わずまた、吹き出して笑ってしまった。
「汚したワイシャツの弁償だと思って気兼ねなく受け取ってもらえると有難いです。」
「そっか・・・
なら
ありがとな。」
はにかんだ部長はあの日、一緒に過ごしたプライベートの顔の部長になっていた。
「じゃあ、・・・失礼します。」
軽く頭を下げて、またエレベータのボタンを押した。
「気を付けて帰れよ」
「はい。」
背中越しに立ち去る足音が聞こえて
なんとなく振り返ると
偶然
部長も振り返って
視線がぶつかったから
驚いて
パッと視線を外した。
「なんで振り返るかな・・・ビックリするじゃん。」
驚いたせいで跳ねる鼓動。
もう一度、振り返った時にはもう、部長の姿はなかった。