下手くそな恋を泣きながら


「どこに行くんですか?」

「ドライブだ。付き合えよ」


上司が部下に、休日に付き合えだなんて・・・


「昨日、私は先に帰りましたが二次会は楽しかったですか?」

「別に、中年男二人で飲んでるだけだからな。」


続かない会話。

一体、なんのために私を呼んだんだろうか。

長い沈黙の社内では、昔、お姉ちゃんの部屋から聞こえていたような曲が流れている。

あの頃の私には歌詞の意味なんか理解できてなかったけれど、切ないラブソングだ。


暫くすると、遠目でも分かるほど、フロントガラスの向こうに、ピンク色に染まった景色が見えてくる。


「あそこ・・・」

指差す私に「芝桜なんだけど、知ってる?」と。

芝桜の花が絨毯のように敷き詰められるように咲く公園。

「私、桜はみんな木の上に咲いてるものしかなかったです。」

淡いぴんくに濃いぴんく。白っぽい色に青い色。


色とりどりの桜の花びらは、私の知ってる桜とは少し違った形で、可憐に優しく咲き誇っている。


「こんな景色、初めて!!」

さっきまでの憂鬱な気分も一瞬で吹き飛んで、桜の絨毯の道をスキップするように歩く。

そんな私の後ろをついてくる部長。


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