下手くそな恋を泣きながら


ボディーソープの容器を手に取り、銘柄を確認した。


「これが部長の匂い・・・なんだ。」

容器を見つめたまま

止まない鼓動。


泡を流した後に体にほんのり残る部長の匂い。


少しだけ

恥ずかしい気持ち。

何をこんなに

頭の中を一杯にしてしまっているのか

そんな事を考える余裕もないくらい

シャワーを終えた私は、リビングで待っていた部長の姿をちゃんと見る事ができなかった。

恥ずかしい気持ちと同時に沸き起こる気まずさ。

自分でも、自分らしくないって分かってる。

分かってるからこそ

部長にも気づかれたくなかった。

ソファーに座りながら書類を見ていた部長が、リビングの入り口に立っている私に気付くと「戻ったなら声くらいかけろよ」なんて

優しく笑った。


また


跳ねる鼓動に


どうしようもなくて


バスタオルを頭から被り直した。


そんな私の気持ちに気づくことなく、シャワーに向かう部長がすれ違い様に

私の頭を軽くぽんぽんと叩くから

初めて

・・・そう

初めて私は思ってもない言葉を口にしたんだ。


「もうっ、部長、遠くで待ってる彼女さんがやきもちやいちゃいますよ?」なんて

笑いながら

その手を払ってしまった。

部長がどんな表情をしたかは分からない。

背中越しにリビングのドアが閉まる音がなぜかやけに大きく聞こえたような気がして


それがやけに悲しくて自分の態度が嫌になる


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