下手くそな恋を泣きながら
「部長は、その子と結婚したかったんですか?」
何気ない会話の続きのように聞いただけだったのに、黙りこんだまま返事をくれないので、その横顔をのぞきこむと、予想外に耳まで頬を赤くして唇をきゅっと噛んでいた。
「子供みたい。」
思わず、呟いてしまうと、部長は頬を赤く染めたままちらりと私を睨むように一瞬、視線を向けた。
「子供に子供扱いされるなんて、俺も終わりだな。」
そんな皮肉も頬を赤く染めた中年に言われても腹立たしさも感じない。
でもやっぱりそこで気になってしまうんだ。
今の恋人のこと。
部長は一切、自分のプライベートなことは自分から話さないし、特に恋人関連の話は不機嫌になるから興味があっても踏み込むことがタブーだと分かる。
どうしてなんだろ・・・
部長も恋人さんも
そんな関係で幸せなのかと余計なお世話ながら疑ってしまう。
私の恋もまともに誰かに話せるような片思いではないけれど・・・
こうやって、私といる時の部長はそれなりに自然体のように見えて・・・
恋人の存在を知りながらもそんな姿を見ていると
もしかしたら私の方が・・・・
・・・・
私のほうが?
自分が何を考えようとしているのか一瞬、分からなくなって、顔が熱くなる。
慌てて両手で頬を隠した時「ようやく着いたー!」と、嬉しそうな部長の声。
見上げた車のフロントガラス。
暗闇さえ信じられないほど夜空を隙間なく小さな光が彩っていた。
突然の神秘的な輝きと美しさ。
フロントガラス越しにも思わず息を飲む私がいた。