男嫌いな女王様とクールな臣下

オフィスに戻る帰り道、朱音と影山は楽しそうだった。

「みんなどういう反応すると思います?」
影山が朱音に聞く。

「驚くだろうな」

「そうですね。でも、お嬢様のお手伝いが出来たのは、私だけでしたよ」

「お前、そんなことが嬉しいの?」

「当然です。私のお墓に入るまでの自慢話に加わらせて、他の重役たちにやきもち焼かせます」

「なんだ、それ」
朱音が高らかに笑うのを、他の男がほっとした気持ちで見守っていた。




「結婚した?」


「どういうつもりだ?」重役たちから口々に意見や感想が出て来た。

「ただいま、区役所に行って婚姻届けを提出してきました」
影山が慎重に言う。

「それが、君が言ってた解決法かね?」
岩淵が前野に尋ねる。

「はい」

「だって、すでに結婚してたら、婿養子なんて無理でしょう?」
朱音が夫に抱きついて無邪気に答える。

「浮かれてる場合じゃありませんよ。そんなことしたら、相手がどう出て来るか」
心配そうに坂田が言う。

「どうもしないさ。元から理不尽なこと言ってきたのは向こうだ」
前野が悪ぶれずに言う。

銀行に対する対策も、宇月に対する対策も万全だ。

もし宇月が納得しないで駄々をこねたら、何重にも止める手立てを考えてる。

そのために、親父に場所を提供して恩を売ったのだ。

前野は、一通り考えを巡らせて頷いた。

「だからって、お金を握ってるのは銀行なんですよ」
重役の一人が言う。


「それがどうしたっていうの?」
前野が冷ややかに言う。

「騒ぐだけで、何の解決もできないのは誰だよ」
前野が老人に向かって吠える。

朱音が、彼が本気で怒ってるところを目の当たりにした。

彼は、老獪な老人たちに、一歩も引かない。


「そうか。そのくらいの覚悟があるならいいだろう。明日の記者発表は中止だな」
岩淵が静かに言う。

「はい」重役たちが揃って返事をする。

「影山、対応頼むぞ」

「はい」
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