男嫌いな女王様とクールな臣下
朱音は、ちらっと影山を見た。

ほら見になさいよと、朱音が少し責めるような目つきで睨んだので、さすがの影山も恐縮して軽くせき込んだ。

影山は、若い女主人のメッセージを正確に受け取った。

『適当な時間が来たら、顧問弁護士の榎田に迎えに来させて』

影山も、せき込んだついでに、朱音の目を見てしっかりと頷いて応える。

朱音が生まれてからの長い付き合いなので、二人は一瞬のアイコンタクトで通じ合ってしまう。


宇月のおっちゃんが、これ上ないっていうくらい上機嫌ではしゃいでる。

「朱音君、今日君を呼んだのはね。こいつをね、是非紹介しようと思ってね」

面倒だから、朱音は先に自分から名乗った。

「初めまして。堀田朱音です」

「初めまして。朱音さん。宇月雅也です」
会長とは、全く対照的な若者だった。

似てないだろう。
いいや。でも、しっかり宇月って言った。

そんなにある苗字じゃないし。

宇月?

まさか、息子を連れて来たの?この親父。

ええっ??

「ガハハハッ、朱音君。見たよお~
今日の新聞!でっかく載ってたよねえ」

朱音は、影山に視線を向けた。
影山は、しゅんとして、さらに小さくなって宇月にお酒をすすめている。

「ありがとうございます。いいねえ。いいね。こうして二人で並んでると、うちの銀行と堀田ちゃんとこの会社の未来を見てるみたいだね」宇月がご機嫌な、だみ声で言う。

影山がうつむきながら、宇月にお酌をしてもらっている。


くそっ、言わんこっちゃない

面倒なことになったな。

メインバンクの社長の息子。
しかも、本人が乗り気だなんて言いだしてる。

「朱音ちゃん、それでね、こいつが君のことすんごく気に入っちゃってね。
堀田土地開発の社長ってこんなに美人なんだって言いだしてさ」

そうですか。朱音も適当に言葉を挟む。

「こいつ、うちの次男なんだけど、優秀だよ。
T大の法科出て、役人になっちゃったの。
今は役人を止めて、うちの銀行で働いてるんだけど。
どうかな。
堀田さんとこ、朱音ちゃん一人でしょう?
うちの息子なんか、ちょうどいいなあと思うんだけど。
どうかな?こいつ朱音ちゃんと結婚できるなら、会社辞めてもいいって言ってるんだけど。
この際、結婚しちゃおっか?」


「冗談言わないでください」
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