男嫌いな女王様とクールな臣下
しかし、人のいい影山では、古だぬきのじじいの相手が務まるわけがない。
どうにもならないだろうと、朱音は諦めた。
料理も出そろって落ち着いた頃、宇月会長がいきなり言い出した。
「影山君?」
「はい」
姿勢を正し、かしこまって会長に返事をする影山。
「我々のような老体は、そろそろ家に帰ろうかね」
いや、あの。と、影山がしどろもどろになる。
「いえ、私は、秘書として最後まで社長のそばに……」
宇月のおっちゃんが、両手でいきなりパチン、パチンと手を叩いた。
「じゃあ、今日の業務はここまでね。ほら、影山。お宅のお嬢様は、うちの息子が責任もって送り届けるから。さあ帰るよ」
「いや。そうは行きません」
影山も、散歩に行きたくない犬のように踏ん張ったが、所詮、老獪じじいの敵ではない。
「行くぞ。ほら、立て。帰るぞ」
「大丈夫だから、先に帰っていいよ」
朱音は、影山の後ろから声をかける。
腕っぷしの強い、宇月に押し切られて影山が部屋からつまみ出されてく。
「お嬢様……」
遠吠えのように声だけ残し去って行く。
しょうのないやつだ。
面倒なことしやがって。
朱音は、考えていた。
どうするかな。
そういえば、前に言ってたことを思い出した。
宇月のじいさん、この次男坊をうちの家系に似合わない、出来の良い息子だと言って可愛がっていたのだ。
うかつに断ると、じいさんへそを曲げるに違いない。