男嫌いな女王様とクールな臣下
本当に何ともない。
どうしてだろう。
なぜ、彼だけ大丈夫なのだろう。
「ごめん、腕、離していい?背中回すから」
ぎゅっとしがみついた腕を、さっと外されてしまった。
「辛そうだね。ちょっといい?」
彼は、私の足元にかがみこむ。
すると、ふわっと体が浮いた。
ぐらんと世界がひっくり返って、宙に浮いた感じがした。
ええっ?
あっという間に前野さんに抱きかかえられて腕の中にいる。
彼の顔がすぐに目の前にある。
「ふらつくから、俺の首に君の腕を巻きつけて」
「はい」
抵抗することなく、自分から抱きつくなんて。
自分から、男性に触れてもいいと思ったのは初めてだ。
こんな事があるなんて。
夢みたいなことが起きている。
「上に向かう専用のエレベーターがあるの。この階から乗れるんです」
なんと、男性に抱かれながらエレベーターに乗りこむ。
「52階?ずいぶん上に行くんだね」
「ええ。もともと家の両親が作ったの。今は四国に夫婦で行ってしまってここにはいないけど」贅沢過ぎる居住スペースだから、無駄だと父に猛反対した。
それが、たまには役に立った。
「ええっ、君の両親ってちゃんと生きてるの?」
「ええ、生きてます」
「それなのに、娘の君が社長をやってるの?」
「いろいろ事情があって」