男嫌いな女王様とクールな臣下
「大丈夫?やっぱり抱きかかえるから、すぐにベッドに行こうか?」

朱音は、首を振った。

これ以上、姫様のように扱われたら

取りあえず、医者が来るまではここにいたい。

「辛かったら、俺にもたれていていいから」

「んん……」

もたれかかると、優しく肩を抱いて胸の中に包んでくれた。

「この方が楽かい?」

「ん……」

「じゃあ、そうしているといい」

彼の胸に抱かれて、小さな女の子をあやすみたいに大事に扱われていた。

朱音には、こんなふうに誰かに身を任せるようにした記憶がなかった。

よく、テレビのドラマなんかで苦しい時に、母親が抱きしめてくれたり、慰めてくれたりする。

普通の家庭で描かれる体験が朱音には、まるでなかった。

具合が悪くても、一人きりでこういう大きな部屋で寝かされて親の帰りを待っていた。

熱を出した記憶も、ほとんどなかった。

子供の頃、具合が悪くなった時、家にいたお手伝いさんが医者を連れて来てくれて、苦い薬を飲まされる。それが一番嫌だった。

『朱音ちゃんが眠るまでそばにいますから』と言ってベッドに寝かされ、一人で眠った。

お手伝いさんは、こんな風にしてくれなかった。

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