男嫌いな女王様とクールな臣下
「ちょうどいい機会じゃないですか。大人しく口をつぐむ練習でもしててください」
「心配して、戻って来てくれるのか?久俊」
「一時的ですよ。父さん、俺はもう引退した身ですから」
「なに言ってる。親より先に引退するやつがあるか。
まあ、いいじゃないか、久しぶりだ。一杯やろう。待っとるぞ」
「はい」
古くからのお屋敷が並んだ地区に車が入った。
前野は、ここでほとんどの時間を過ごした。
屋敷の前には、記者やカメラマンが陣取っている。
そのまま通り過ぎて、裏の路地へ回るよう運転手に伝える。
数はそれほど多くはないが、たとえ数人でも、いちいち人の出入りを報道される。
落ち着くまで、何日もかかるだろう。
前野は、表の玄関を避けて、裏口に回った。
幸いこっちには、誰もいなかった。