お見合いですか?
お見合いなんですか?
「お見合いなんですか?業務提携の打ち合せと聞いてきましたが?」
若干、笑顔が引きつったが、仕方がない事だろう。
 森高愛実(モリタカ アイミ)は引きつった笑顔のまま、目の前の人物を、どういう事だ、という思いを込め見つめた。
 
 目の前に座っている人物は、胡散臭い笑顔で「あれ?森高君から聞いとらんかね?」
と、さも、こちらが知っているような口振りで言った。この場合の森高君とは、父親の事だろう。
胡散臭い笑顔のこの人物は、武尊(ホタカ)食品の社長で、父親とは、知り合いらしい。

 「何も聞いておりませんが」更に頬の筋肉が引きつった。
無言の圧力をかけるべく目の前のオヤジを睨み付けるが、相手は県内でも有名な会社の社長だ、全く気にもせず「じゃあ、後は若い者同士で、ごゆっくり。」と、さっさと部屋を出ていった。

 お見合いにしては、かなり殺風景な武尊食品本社の応接室で、思いっ切り溜め息を吐き出したいのをこらえ、残されたもう1人の若い者に聞いてみる。
 「ご存じでしたか?」
「一応、聞かされてはいたけど。」淡々とそう答えられた。
 その様子から、この打ち合わせには何の意味もなく、本当にお見合いみたいなものだと判った。
 淡々と答えた彼は、「まぁ俺は、どっちでも構わないんだけど。」と、また淡々と続けた。

 「どっちでもって…」
こらえていた溜め息が、思わず出てしまった。
 
 こうなったら、どうでもいいわ。
少し投げやりな感じで、目の前の男に聞いてみる。
「好きな人とかいないの?」 
「そっちは?」
「わ、わたし? 私は、はぁ~、ここ数年仕事が恋人でしたから…」

 目の前の男、確か社長の息子で、名前は、武中 悠斗(タケナカ ユウト)と、言っていたっけ?
ちらっとテーブルの上に置かれたままの名刺を見て確認した。

 どうやら、武中悠斗は自分の情報は言いたくはないらしい。喰えない奴だ。
しかも、今までずっと無表情だ。
どっちでも構わない、という投げやりな態度から、乗り気でないことが伺える。
やる気が無いなら、いっそのこと、断って欲しい。
いや、これは、断れっていう流れか?
自分から、断れないのだろうか?
それで、あのやる気のなさなのか?
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