お見合いですか？

　しばらくして、愛実が風呂から、出てきた。キッチンに行って、水を飲んでいる。
「愛実、こっち来て」と呼ぶ。
水の入ったコップを持ったまま、こっちに向かってくる。
「何ですか？」と、目の前に立つ彼女を見上げる。まだ、少し濡れている髪に、火照った頬が少しあかい。スッピンの彼女はツンとした感じが柔らぎ、可愛いく見える。
彼女の手をとり、座ってと言う。
手はそのままに、隣に彼女が座った。
彼女の手と自分のてを絡ませて、恋人繋ぎにする。その間、されるがままだ。
手の甲を親指で撫でると、くすぐったいっといった風に、眉を下げて、俯く。
その反応を楽しんだ後で、「結局、車で行ったのか？」と、答え易い質問をした。

「はい、社用車が使えて良かったです。井川君にちょっと申し訳無かったですけど。」
　社用車は一台しかなく、取引先に行く用事のあった井川とじゃんけんで決めていた。
おかげで、井川はちょっと遠い取引先に電車で向かう事になった。
駅からも微妙に遠くて嫌だと言っていた。
「まぁ、仕方ないだろ。井川は今日は荷物が少なかったしな。」
　そう言って、彼女の様子を窺う。
繋いだ手の力を強めた。
「なぁ、本社でさ、藤堂（ﾄｳﾄﾞｳ）って奴に会った？俺の同期の女なんだけど。」と、聞くと
「藤堂さん？」と、聞き返して、少し考えて、
「ああ、いました。可愛いらしい感じの人でした。」と答えた。
「可愛いかどうか分かんねーけど、何か言ってた？」
「何かって？」彼女が、少し警戒して答える。
「俺の事とか？」そう言うと、彼女が、俯いた。「嫌いになった？」少し、彼女の方に体を向けて聞いた。
　彼女は、ゆっくり首を振った。そして、「違うんです。」と、俺と視線を合わせて、呟くように言った。