お見合いですか?
 「おお、愛実、どうした?」と、いつもと変わらない態度に、イライラが募る。
「だから、これです!」封筒をバンバン叩いた。
 「ああ、そうか、今日がお見合いだったか」
くそ親父、声がでかい。
おかげで、社内の連中がこちらを見ている。
「お見合いじゃなくてっ!こっちのことを聞いているんですが」少し、声を落として問い掛けた。
「まぁ、この話しは、ここじゃ、なんだから…
うちで話そう。」
「分かりました。」
確かに、社内で、お見合いがどうのこうのと、話したくはない。

 あの後、なかなか仕事が捗らず、帰宅したのは、午後8時過ぎだった。
 今は、実家暮らしだ。
いつもなら自分の部屋へ向かうのだが、今日は違った。まず、キッチンへ向かい、ビールを取り出し、缶のまま一気に飲んだ。
 キッチンに来た母が「あい、ただいまも言えないの?」と呆れた声をだした。
面倒なので、スルーして、「お父さんは?」と聞いた。「リビング」と一言で返された。

 武尊食品は主にパンやケーキ、大手コンビニと提携してからは、パスタなども製造するようになった、食品会社だ。コンビニやスーパーに商品を卸している。
 今回の業務提携は、うちの看板メニュー“森のパスタ”を、武尊食品が製造し、提携先のコンビニに卸すというものだ。因みに提携先のコンビニは、北関東を中心に展開している。大手コンビニとは別ね。
 
 「うちは、パスタの味を監修すればいいだけでしょ?わざわざ私を武尊食品に売る理由ってなに?」とリビングでくつろいでいた父に聞いた。
 「向こうが言うには、人手が足りないらしくてな、お前に来てもらいたいって言われてな。それでだ。うまく行けば、第2段もあるかもしれないし、何よりも、うち用のケーキを作って貰えるかもしれない。」

「そう言うことですか。まぁ、確かに、デザートを充実させる事が出来るなら、今後も見据えて、私が武尊食品にいるほうが都合がいいかもしれないけど、お見合いは別だよね?」
「勿論、どうしても駄目だって言うなら、断ってもいいと思う。が、…お前ももう三十路だろ」
「まだ、29ですっ」
「今年の誕生日で30になるだろうが、それに、なかなかのイケメンだろ?ほら、今流行りの塩顔って感じか?」
「なんでお父さんが、塩顔とか知ってんのよ?てか、あれは塩顔とは言わないわ。とりあえず、お見合いは断ってもいいんだよね?というか、断る!あんなやる気の無い人と結婚出来ない。」
「いや、まて、まだ結論をだすのは早い!早すぎる!お見合いと言うものは、半年位時間をかけて、じーっくり、じーっくりと判断するものだ。いいか愛実・・・・・それが、常識だ!!」
「どんな常識だよ?」
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