お見合いですか?
 車が停車して、シートベルトを外した。
体ごと隣をむいて、「ありがとうございました。」と、少し頭を下げた。
「ああ、じゃあ、また明日連絡して。」
そう言いながら、何故か私の頬を撫でてくる。
う、動けません。
彼の手が、後頭部へと回されていく。
なんなんだ!この甘い雰囲気は。
でも、期待してしまって、そっと目を瞑った。
少し引き寄せられた後、唇が重なった。
軽く啄まれて、リップ音と共に唇が離された。

 ああ、ひさしぶりだと思って、なんかちょっと照れくさい。
「じゃあ、行きますね。」そう言って車のドアを開けた。

 キャリーケースを、カラカラと引きながら、実家まで歩いていると、後ろから声をかけられた。
「アネキー」
振り返ると、久しぶりに見る、弟がこちらに歩いてきた。しかも、ニヤニヤとした顔で。
「何?あんたも帰ってきてたの?」
「いや、俺今、実家暮らしだし。」
「えっ、そうなの?何で?」
確か、弟は実家からはちょっと遠い店で、料理長してたはずだ。
「あれ?知らないの?俺、本社勤務になったんだけど。」
歩きながら話していたんだけど、立ち止まってしまった。
数歩先で弟が、振り返り、「どうしたんだ?」と、聞いてきた。
「何でもない。」そう言って、早足で歩き出した。


「ただいまー」、玄関で声をだして、上がり込む。
後から来た弟が、「どうしたんだよ」と、聞いてきたが、構ってられない。
リビングで、テレビを見ていた父親に声をかけた。
「お父さん、ただいま。」
「おお、愛実、ひさしぶりだなぁ」
「聞きましたよ。翔(ショウ)が本社勤務になったって。」
「ああ、お前が東京に行くことになったからなぁ。」
「狙ってたんですよね。私にお見合いを断らせなかったのは、翔を本社に呼びたかったからだよね。」
「いやいや、愛実、それは疑いすぎだぞ。それに、お見合いがどうしても嫌なら、戻ってきたっていいんだぞ。ただ、愛実には幸せになって欲しいだけだ。それに、孫も早く見たいしなぁ。」
「だからって、無理やり同棲させなくても良いじゃない。」
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