お見合いですか?
 5年前より、か。
もう、そんなに経つんだ。
実家の自分の部屋で、机の引出を漁った。
3年位前から付けなくなった、ネックレス。
それが、今ここに在る。
細いプラチナのチェーンの先に、小さな一粒のサファイアが揺れている。
シンプルなデザインで、お気に入りだった。
もう、これを見ても涙はでない。

 これをプレゼントしてくれた人を、思い出す。
笹井礼央(ササイ レオ)元彼だ。
元々、製菓の専門で、あの場所に居るべき人じゃなかった。だから、別れてしまったのも当然だった。嫌いになったわけじゃない。
ただ、彼が居るべき場所へ戻っていっただけだ。

 気づけば、寝ていたらしい。
ベッドのうえで、目を覚ますと、もう外は薄暗かった。

 部屋の電気を点けると、ベッドの枕元にネックレスがあった。
また、元の場所に戻した。

 下に降りていくと、いい匂いがしてきた。
自分で用意をしなくてもいいのは、やっぱり楽だなぁ。なんて思っていたら、「あいー、起きてきたなら手伝ってちょうだい。」と母に言われてしまった。
まぁ、そうなるよねー。
 「家族全員揃うなんて、久しぶりだな。」
と、お父さんが言う、「今年の正月も集まったじゃねーか。」と、弟が応えてた。
「なんで、春麗らなこの時期に鍋なの?」とは、私だ。
「何言ってんだよアネキ、鍋好きだろ?」
「まぁ、好きだけど。」
「じゃあ、いいじゃねーか」
いや、せっかく帰って来たんだからさぁ、お母さんの手料理食べたかったなぁ。とか思っていたら、目の前にお皿が差し出された。
「さすが、お母さま、ありがとー」
お皿に乗っていたのは、出汁巻き卵だ。
母の作る料理の中で、一番好きかもしれない。
「美味しー、やっぱ、出汁巻き卵は家で食べるのが一番うまーい。」
ほっこりしていると、父が言ってきた。
「同棲は本当に上手くいってるのか?」

 いい気分が台無しだ。 
「お父さん、さっきも言ったじゃない。大丈夫だって。」
すると、母が言ってくる。
「あい、あなた料理は出来るけど、掃除はしないじゃない。大丈夫なの?愛想尽かされてないの?」
「お母さん、心配するのそこ?」
「あら、他は心配してないわよ。悠斗君だったかしら、とてもいい感じだったし。なによりイケメンじゃない、塩顔って言うのかしら?ああいう顔」
「夫婦揃って、同じ感想なんだね。そしてあの顔は、塩顔とは言わない!」
「いや、お袋の場合、流行りの言葉を使いたかっただけだろ。」
「翔、お父さんも塩顔って言いたかっただけよ。」
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