副社長と愛され同居はじめます
荒川俊次の話になると、あれはろくな男じゃないから近寄るなと厳しい顔をしていたけれど、私達家族の話をしている時の彼は、懐かしむような、とても優しい顔をした。


呑気な両親だと思っていたけど、両親なりに色々と苦労して、そしてお金よりも温かい家庭を選んだのかと思えば誇らしくもなる。
そしてそんな両親が、私を彼に出会わせてくれたのだ。


今夜も、私を抱き枕にして眠る彼を、起こさないようにそっと上半身を起き上がらせる。


間接照明のオレンジ色の灯りが、彼の綺麗な顔立ちの陰影を色濃くし、少し顰められた眉がその美しさに人間らしさを足してくれる。


誤解されがちな人だろう。
だけど本当はとても情の深い人だから、きっと私じゃなくてもわかってくれる人がいる。


彼が私に抱いているのが、恋なのかそれとも親愛の情なのか。
それを、私に決めることはできないけれど。


もう、充分助けてもらった。


彼の髪を指で撫でながら、眠る横顔を目に焼き付けた。


もうこれ以上、迷惑をかけるわけにはいかない。
荒川俊次は、財産を食いつぶしたどころか多額の借金を負い、身上を潰していた。


そんな男に食いつかれたら、どれだけ彼に迷惑がかかるか。
わかりきったことだった。


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