副社長と愛され同居はじめます
電話をしながらアパートの鍵を開けた。
しばらく風通しをしていない為か、匂いが少しこもっていて思わず鼻を歪める。
空気を入れ替えようと、ドアのストッパーを下ろして開放しておく。
「見捨てた親戚に今更なんのご用ですか」
家具なんかはアパートに残しておいて欲しい、と彼にお願いしていたはずだけど。
綺麗さっぱり何もない部屋に、うっかり涙が出そうなほど可笑しかった。
彼はほんとに私を帰すつもりなどなかったのだと、空っぽの部屋が教えてくれる。
だけど、今はそれが助けにもなる。
解約するのに、後は鍵を返すだけで済みそうだ。
『見捨てたなんて酷いなあ。悪かったよ、そんなつもりなくてさ』
「へえ、そうですか」
『ただあの頃は、俺も家を継いだとこで大変だったんだよ、気が立ってたっていうかさ。ちゃんと後から連絡するつもりだったんだ』
私が乗り込んで、言い争いになった時のことを言っているのだろうけど。
庶民は品がないだとか散々言ってくれたくせに、いけしゃあしゃあとよく言うわ。
白々しい。