副社長と愛され同居はじめます
カーテンを避け、窓を開けようとしていた手が止まった。



「え……?」



ぞく、と背筋に冷たいものが走る。
マンションから出てくるところを、見られていた?


もしかして私が彼と関係があることを確かめようと、待ち伏せしていたのかもしれない。


だとすれば。
と、嫌な予感がして慌てて玄関を振り向いた。



「なあ、ここってもしかして前まで住んでたとこ?ひでえアパートだよな。いいよな玉の輿でこんな生活からはおさらばだろ」



電話越しだけでなく。
確かにそこに、以前会った時よりも少々草臥れた荒川俊次が立っていた。



「俊次さん……」

「そんな怖い顔すんなって」



もう携帯は意味を為さないと、耳から下ろしたのは二人同時だ。


こうして顔を見れば、騙された経緯とその後の対応がむざむざと思い出されて頭の中が熱くなる。


冷静でいることが、難しくなる。



「婚約おめでとう。すげえよな、一気に立場逆転、てやつ。金なら唸るほどある成瀬を射止めるなんてさ」



もう、取り繕う気もないようで。



「なあ、助けてくれよ。実家の事業、立て直しにしくじっちまってもう何もねえんだ。成瀬とはさ、大学のよしみもあるしお前が従兄を助けてくれって口添えしてくれたら、また新事業立ち上げることも出来るんだ。荒川を再建出来るんだよ」

< 118 / 129 >

この作品をシェア

pagetop