副社長と愛され同居はじめます
「おい!」


背中で罵声を聞く。
アパートの二階の通路を、階段に向かって走る。


真下の駐車場に、背の高い男の人を見つけて助けて、と声を出そうとして。


出なかった。



「小春!」



焦燥した顔でこちらを見上げるのは、間違いなく大好きな、別れを決意したあの人で。



「柊っ……!」



頼っては、だめ。
そう思うのに。


背後から聞こえた荒々しい足音に脅されて、慌てて階段をかけおりようとして、踏み外した。



「小春!危ない!」



がくん、と足が上手く踏ん張れなくて身体が宙に投げ出された。


手が、賢明に何かを掴もうとする。
感覚的には、スローモーションだけれど。


掴めるものは何もなく、私はぎゅっと目を閉じた。




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