副社長と愛され同居はじめます
「……おい。荒川俊次」



私の頭を抱き抱えたまま、ひどくドスの効いた声を彼が頭上に向けて放つ。


反して帰ってきた声は、酷く焦り怯えたものだった。



「よ、よう……成瀬。久しぶりだな」

「お前は、小春に感謝すべきだ」

「な、何?」

「お前がほんのちょっとでも小春と血が繋がってるから、今日のことは忘れてやる。一度だけだ、抱えた借金も俺が零にしてやるよ」



驚いて顔を上げようとすれば、それすら、一ミリも離れることは許さないと強く抱き込まれ私の顔は彼の胸に押し付けられる。


揺るがない自信に溢れた声。
彼ほど、頼れる人はいないというのに、また彼ほど自分の望みを叶えられる人はいないというのに、一体どうして離れられると思ったのか。


逃がしてもらえる、はずがない。



「ほ、ほんとか!成瀬、」

「一度だけだ。事業を起こすなら上手く運ぶよう多少の根回しもしてやる。ただし、今後一切、小春達姉弟に近付くな。それが条件だ。一度でも破ってみろ、今後日本でお前の居場所はないと思え。二度と再建できないように破綻させてやる」



ひっ、と息をのむ声がした。
当然だ、守られながら聞いてる私でも恐ろしい。



「わかったら、後で俺から連絡してやるからそれを大人しく待て」

「あ、ああ。わかった」

「今は早く消えろ。俺の気が変わる前に」




< 123 / 129 >

この作品をシェア

pagetop