副社長と愛され同居はじめます
その頃、俺は両親から婚約を勧められてそろそろ年貢の納め時かと、ある意味自分の将来を諦めかけていた。
仕事としては充実し自信もある。


だが家庭を築くということに、とてもあの子供の頃の夏の日のような温もりを期待は出来そうになかったからだ。
所詮、家同士、会社の利益の為、それが勤めでもあった。

この先家庭が自分の居場所となることなど到底想像も出来ず、独身で居られる方がよほど気楽で。
友人に勧められ、飼い始めたネオンテトラが案外、心の安らぎだったりする。


小春たちの近況は、時々、人を雇って報告させていた。


自分の為には何一つ給料を使わず、全ては姉として弟を一人前にするために、彼女は奔走していた。
それなのに、時折会社で見かける彼女は、そんな苦労をおくびにも出さず一生懸命で寧ろ生き生きとさえ見える。


俺よりも、成瀬に関わる他の誰よりも。


自分以外の誰かの為、何かの為。
懸命に働く彼女に、俺が惹かれ始めるのにそれほど時間はかからなかった。

そう、本当に好きになりはじめたのは、それからだ。
実際に、生きた彼女に触れてからだ。

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