副社長と愛され同居はじめます
成瀬さんが選んだ黒のドレスは、腰からゆったりとしたドレープが裾まで流れ、それでいて下半身のラインがタイトに見える。
極上のスタイルを演出する、やっぱり店の借り物のドレスとは格が違った。


それに合わせて、黒とシルバーのピンヒール、胸元には豪奢なアクセサリー……ってこれ、ドレスに試しに合わせただけのイミテーションだよね? そうだよね?


サイドアップした髪を後ろで緩く編んで、髪全体を左肩に流し鎖骨の少し下でウェーブを整える。
とりあえずの体裁を取り繕うためにかかった時間は、ほんの数分だった。まさしくプロの技だ。



「……いかがですか」



ソファにふんぞり返ってスマホを弄っていた男が、私の声に顔を上げた。


ほんのわずかに、瞠目。
初めて男の表情を崩した気がして、ほんの少し気分が良い。



「……まあまあだな」



の、わりに発言にはいまいち熱がない。


まあまあって何!
いい仕事したよ、ここのスタッフさんいい腕してるよ?!


馬子にも衣裳というけれど、やっぱ良い物着ると違うなー、って鏡見て自分でもちょっとばかり良い気になっていたものだから、むっとして全身を見下ろした。


「そーですか」


そっちが無理矢理着せたんだから、もうちょい褒めてもいいんじゃない?


くるん、と背中を向けて鏡に向かう。
足元から顔を上げると、鏡越しに成瀬さんと目が合った。

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