副社長と愛され同居はじめます

愛情価格高騰中




私が一歩、更衣室に足を踏み入れると、それまでの話声がぴたりと止んだ。



「おはようございます」



と言っても、以前はぱらぱらとあった返事は全くなくなった。
マナミさんでさえ、あからさまではないものの以前程には声をかけてくれない。



ロッカーには、荷物を置かなくなって着替えもバッグも全部ウェイターにあずかってもらっている。
成瀬さんに買ってもらったドレスを置いて帰ったら、次に来た時ロッカーのカギが壊されていてビリビリに引き裂かれていたからだ。


成瀬さんに申し訳なくて謝ったら、また新しいドレスを買い与えられ、余計に反感を買った。


そりゃ、そうだろうなあ、と思う。


取れてる指名なんて、成瀬さん以外では数えるほどしかいない。
それなのに、成瀬さんが通ってくれているだけでナンバーワンになってしまったんだから、私だって第三者の立場だったらきっとむかついた。


準備を済ませ更衣室を出て、着替えた服と手荷物を一つの紙袋にまとめウェイターに手渡す。



「ヒナタちゃん、ママが出勤日増やしてくれって頼んでたの、断ったんだって?」



今となっては、このウェイターと話している時が一番、この店で気が抜けるひと時だ。



「当たり前だよ、これ以上は無理だって……」



以前は金曜と土曜だけだったのに、今は月曜と火曜も出勤させられている。
というのも、成瀬さんが私の出勤日はいつかと店に問い合わせ、店側が勝手に出勤日を増やして答えてしまったからだ。


露骨だ。
露骨過ぎる。

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