副社長と愛され同居はじめます
「成瀬さん。入りますよ?」
書斎をノックしても全然反応がないので、一言声だけかけて返事は待たずに扉を開けた。
彼は素知らぬ顔でパソコンの前に居て、ちらりとも私の方を見ない。
またこのパターンか、と少し笑ってしまいそうになった。
「あの……まずは、弟に仕送りをありがとうございました」
傍まで近寄って、お辞儀をしながらそう言うと彼の目がやっと私に向いた。
全く、難儀な人である。
怒られるかもしれない、とか。
そんな自覚があると、ぷいっとそっぽを向いて知らん顔をする。
「いや。金額を特に決めてなかったから適当に送っといた」
「適当にもほどがあります。大学生に百万って何に使うんですか」
「俺が大学生の頃、経営の勉強がてら起業して資金繰りが大変だった。留学なんかもしたければ資金がいるだろうし」
「するかどうかもわからないことにそんなお金使わないでくださいよ、ってかそれ言い訳ですよね。金額に見当がつかなかったんでしょう」
「…………」
「あ。またダンマリ。聞いてくれたらよかったじゃないですか、私に」
「そうだが、仕事でいっぱいいっぱいな様子だった」