副社長と愛され同居はじめます
不器用な隠しごと
ある平日、昼少し前。
オフィスの電話が鳴り、軽やかな、そう、昔ながらの表現だけれど鈴の転がるような綺麗な女性の声が聞こえた。
「副社長、伊月梨沙さんという方からお電話です」
そう言うと、それまで忙しなく山になった書類を端から片していた成瀬さんの手が、ぴたりと止まった。
「あの?」
「今は出られない。かけ直すと言え」
固い冷やかな声に戸惑いながらも、電話の女性に言われたままに伝えると、あっさりと彼女は引き下がった。
なんとなく引っ掛かりながらも、脳内は仕事に戻る。
だけどその数分後だった。
「少し出てくる」
「えっ? どちらに?」
「すぐ戻る。小春も待たないで昼飯に行ってていい」
そう言うと、彼は一人で副社長室を出て行ってしまった。
こんなことは初めてだった。
それまで彼は、どこに行くにも必ず私を連れて出てくれていたのに。