天人菊

それは僕が大学に入学して半年たった10月のこと。いつものように僕は学友の久保田修二と講堂へ向かっていた。僕と久保田は文学部の1年で高等学校でからの友人だ。
「ねぇ！そろそろ文学部の徴兵猶予がなくなるらしいよ！」
久保田が掲示板に貼られている紙を見て言った。それに対して僕は
「そんなはずないだろ、どうせ誰かのイタズラさ、こんなビラ。」
そう言ってそのビラを剥がし近くのゴミ箱に捨てた。
「そうなのかな…もし戦争に行くことになったら俺…ひとかたまりもないよ」
久保田が怯えたような声で言った。僕はそれをなだめるように
「そんなことあるわけないだろ？よし、早く行こうぜ！遅れるぞ！」
「お、おう！」
僕たちは急いで講堂へ向かった。

その背中に何かを訴えるかのようにゴミ箱の中のビラが捨てられていた。