縁に連るれば
「実はその煮物、そこら辺の虫なんだよねえ……」



おいしそうな朝餉の煮物を食べる彼女を見て、俺はふといじわるをしてみたくなったことがある。


それは、彼女――妃依ちゃんが、屯所に留まって3日目の朝のことだった。





案の定、彼女は動かしていた口を止めて凝視される。

「本当だよ」と言うように、笑って二回程頷いて見せる。


きっと普通の煮物と思って食べていたろうから、驚きといったらない。

……いや、本物の、普通の煮物なのだけど。


みるみるうちに顔色が変わっていく様を見ると、何ともいじりがいがある子だなあ、と思ってしまう。

これが俺の悪いところかもしれないな。



「冗談だよ!真に受けちゃった?ごめん、ごめん」



あまりにも驚いたようでずっと動かないから、さすがに謝った。

はははっとわざとらしく豪快に笑う。


それから暫く動かなかったけど、どうやら状況を理解したらしく、妃依ちゃんは頬を膨らませた。


そんな表情をされると、何だか申し訳なさが増してしまう。



「虫とか何も入ってないから安心してね」



もう分かってはいると思うけど、一応そう付け加えた。


うん、でもいじりがいがあるし俺も楽しいな。

妃依ちゃんがどう思っているのかは分からないけど、少なくとも俺はここ数日で結構彼女との時間を楽しんでいる気がする。


――こういう時間も長く続きはしないのが、何とももったいないなと思ってしまった。




「――よろしいでしょうか」



そんな時だった。


障子の向こうから男性の声がした。

笑顔を一瞬で抑える。



「どうぞ」



そう応答すると、障子がすーっと開かれ、その向こうには中村五郎がいた。


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