林檎はあまいかすっぱいか
ここは、文芸部部室。
普段は自由にお菓子を食べたり本を読んだりできるオアシスだけれど、部誌原稿の締め切りが迫ればたちまち半泣きの部員が缶詰め状態になり修羅場へと変わる。
……というのは先輩から聞いた少し前までの話で、全盛期に比べ部員が減り、年の部誌刊行数も減った今は、もっとのんびりゆったりな活動になっている。
とはいえ藤島みのり17歳、ただいま絶賛修羅場中でございます。
締め切りは明日。原稿に取り掛かり始めたのはつい先ほど。
机の向かいに座る奇しくも同じ名字の部長、藤島智(さとる)くんの視線がとてもこわい今日この頃です。
「……そんなに睨まなくても、明日にはちゃんと出しますよう」
「ちゃんとパソコンで打ち込んで、データで出せよ。その汚ったないルーズリーフは受け取らないからな」
「へいへい」
わたしには、「デッドラインの女神」の二つ名がある。先輩から賜ったものだ。
原稿の提出はいつも締め切りギリギリ。でも落としたことは一度もない。
ちなみに夏休みの課題も最終日に始めて徹夜で終わらせるタイプだ。決して計画性がないわけじゃない、土壇場での集中力が人並外れていると言ってほしい。