林檎はあまいかすっぱいか
そんなわたしは、部長の智くんの目にはどうしようもない変人に映っているみたい。
……わたしには林檎の命題を語るあなたの方がよっぽど変人に見えるよ智くん。口が裂けても言わないけどね。
「おい、手が止まってる」
「……智くんが人の原稿にケチつけてくるからでしょうに」
「はあ? 大体『林檎のように赤い』とかいう凡百な表現を使うなよ、もっと後輩の手本になるようなやつを考えろ馬鹿」
また! また馬鹿って言ったよこの人。
そんなに馬鹿馬鹿言われちゃ、さすがのわたしも黙ってはいられない。
わたしはペンを置くと机に両肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せて、にこりと笑って首を傾げてみせた。
「え〜じゃあお手本になるような書き方を教えてくださいよ智センパイ」
「……」
すると、眉間のしわをさらに濃くさせて黙り込んでしまった智くん。
険しい視線はわたしの手元にあるルーズリーフの走り書きに向けられている。
「……瑞々しく、桜桃色に煌めく頰、とか」
やがてぼそりと呟いたぶっきらぼうな声と、思いの外可愛らしかったその表現に。
不覚にも、少しときめいてしまった。