林檎はあまいかすっぱいか
「――さくらんぼ! なるほどその手があったか」
「真似するなよ。それに、今のは前後を読んでパッと思いついたやつだから……もう少し考えればもっといいのが浮かぶ……」
本人にも可愛らしすぎた自覚はあるようだ。さっきまでと比べもごもごと声に威勢がない。頰と耳が心なしか赤く染まって見える。相変わらず表情は不機嫌なままだけれど。
……でもたぶん、できるだけわたしの文章を崩さない表現を考えてくれたんだろう。
林檎の赤から、さくらんぼの、赤。
手法は違えど近しいところが、妙に嬉しい。
なんだ。
なんだかちょっと、得した気分。
「ほんと、外観は当てにならないね」
「……どういう意味だ」
「んー? 智センパイのおかげで原稿が捗りそうだなって」
「へえそれは良かった。じゃあ今日中に書き上げろよ、俺が帰るまでに」
「うわあ鬼がいる……」
なんて言いつつ智くんは明日まで待ってくれるし、わたしは必ず明日までに書き上げる。お互いにそれをちゃんと知っている。
まあなんというか、変人藤島同士、一周回って案外波長が合うのかもしれない。