和花葉さんは今日も
「田辺くん、コーヒーに砂糖とかミルク入れる?」
質問を投げかけられ、ハッとし、彼女の方を見るとサイフォンでコーヒーを淹れていた。
サイフォン使ってる女子高生とか初めて見た。
「……田辺くん?」
なかなか答えない俺を不思議に思ったのか、彼女はコーヒーを淹れる手を止めてこちらを向いた。
さっきから驚きの連続すぎて、頭がついていかねぇんだよ……。
「何も入れなくていい」
「分かった」
返事を聞いてサイフォンに向き直る彼女を見届け、俺は太郎の姿を探す。
ここに入ってから太郎を見ていなかった。
しばらく部屋を見回して、キャットタワーの側にあった猫用のベッドの中で、すやすや眠る太郎を発見した。
彼女に、正式に飼われているわけではないのだろうが、野良猫にしては随分いい暮らしをしているなと思った。
「どうぞ」
「……いただきます」
彼女からコーヒーカップを受け取り、少し飲んだ。
「よくブラックで飲めるね。サイフォンでいれると苦いでしょう?」
「そう思うなら、なんでサイフォンでいれてんの?」
「味は濃い方が好きなの」
あとおしゃれだから、と悪戯っぽい笑顔と共に答えが返ってきた。
サイフォンでコーヒーをいれると、豆の癖がドリップコーヒーよりも強く出るといわれていた気がする。
「……このコーヒーは苦味もあんまりなくて飲みやすい。美味いよ」
素直に褒めると、彼女は驚いたように目を見開いた。
サイフォンでコーヒーをいれるのは難しいイメージがある。
コツさえ掴めば、安定した味のコーヒーをいれることができるのだが、しっかりその手順を踏まないと、余計な苦味や渋みが出てしまう。
しかし、彼女がいれてくれたコーヒーにはそういうものは感じないし、かといって、味が軽すぎるわけでもない。
つまり、彼女はコーヒーをいれるのが上手いのだ。
「……豆のおかげかな?」
おどけたように彼女は笑う。
「豆はブレンド?」
「うん」
「どこで買ったやつ?」
「珈琲工房あかつかってお店なんだけど、知ってる?」
「……ああ、N中の近くにある」
「そうそう!」
彼女は興奮したように身を乗り出してきた。