ムシ女
☆☆☆

ようやく涙が収まったのはそれから、20分ほど経過してからだった。


泣いたおかげで少し熱っぽさを感じるけれど、心はスッキリしていた。


自分の感情を吐き出す事ができたからだろう。


「ごめんねミィ。あたしはもう大丈夫だから」


涙をぬぐってそう言うと、ミィはケース越しにあたしの顔をペロリとなめた。


その仕草に「ふふっ」と声を出して笑った。


こうして笑うのも、とても久しぶりな気がする。


あたしはミィに近づいてケースに手を当てた。


「ねぇミィ、あなたにもう1つだけお願いがあるの」


そう言うとミィは耳をピクリと動かした。


「あたしがここから出る事ができたら、必ずあなたをこの家から連れ出してあげる。だから最後のお願いを聞いてくれる?」


ミィは返事をしない。


だけど、ジッとあたしを見つめてその場から動こうとはしなかった。


あたしの次の言葉を待っているのだ。


「ベッドの下にあたしのスマホがあるはずなの。取ってくれない?」


あたしは陽介君のベッドを指さしてそう言った。


ミィは理解できただろうか?


少し不安だったけれど、それもすぐに消えて行った。


ミィは「ニャァ」と短く返事をすると机を飛び下り、陽介君のベッドへと小走りに向かったのだ。
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