ムシ女
そのまま器用に前足で引き出しを開けると、中に入っているものを口にくわえて外へ放り出しはじめた。


引き出しの中はほとんどが服や下着類だったが、その中で1つだけ、あたしの鞄が混ざっていた。


あたしと同じように小さなサイズになったそれに、「あ!!」と、声を上げた。


その声に気が付いたミィが動きを止めてあたしを見た。


「ミィ! 小さな鞄を取って!!」


そう言うと、ミィは鼻先で陽介君の衣類をかき分けて小さな鞄を口にくわえた。


ミィはあたしの顔を確認しながら机に飛び乗ると、くわえていた鞄を虫かごの天井に置いた。


手を伸ばして隙間から取ることができるかと思ったが、鞄のほうが大きくて引きずり込むことはできなかった。


あたしは天井の真ん中を開き、手を伸ばした。


ミィがそれに気が付いて鼻先で鞄を押しやってくれた。


「ありがとうミィ!!」


どうにか鞄をケース内に引きずり込むと、あたしはすぐにチャックを開けた。


鞄は科学室で地震にあった時のままで、少し薬品臭さが残っていた。


その中をひっくり返してスマホを探す。


教科書やノートがバサバサと落ちてきて、その中にあたしのスマホを見つけた。


「あった……!!」


一瞬にして光がさしこむ。


生き地獄という名の世界に、天からの糸がたらされたような気分だった。
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