ムシ女
陽介君が鞄とスマホをバラバラに保管していなかったのが幸いだった。


スマホを確認してみると、まだ充電は残っていた。


陽介君が何件か偽装のメールを送っていたようだが、サイズが小さくて扱いにくく、それも途中でやめてしまったのかもしれない。


画面上には和や家族、親友の美衣からの連絡が沢山入っていた。


《大丈夫か? 今どこにいる?》


《返事がないけど、地震大丈夫だったか?》


《百合花、お願い連絡して!》


《百合花ちゃん、大丈夫だったらすぐにお父さんかお母さんに連絡してちょうだい》


《連絡待ってるからな。絶対に絶対に助けに行くから》


そんなメールを見ている内に涙が浮かんできていた。


そういえばここに来てから、あたしはほとんど名前を呼ばれていなかったのだ。


百合花。


そう呼んでもらえるだけで、あたしは心の底から嬉しさを感じていた。


「お願い……助けてぇ……」


あたしが小さくなってしまったことなんて、きっと誰も信用してくれないだろう。


だけどあたしは今まで起こってきたことをすべて丁寧に書き記した。


《今、あたしは虫かごの中にいます》


こんなメールでも必ず信じてくれて、そして強引にでも助けに来てくれる相手にあたしはメールを送ったのだった……。
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