ムシ女
微かに開いた隙間から陽介君が叫んだ。


そうはさせまいと、和が陽介君の口めがけて薬品をかける。


それは硫酸だったようで、ジュッと音がしたと同時に陽介君の口元は真っ赤に溶けて流れて行った。


思わず、やめて!と叫びそうになる。


だけどあたしは自分の言葉を飲み込んだ。


切断された足に視線を向ける。


陽介君はあたしを人間として扱わなかった。


ひどい仕打ちを受けて、恥ずかしい写真もたくさん撮られた。


同情なんてしてやるわけがない。


あたしは下唇をかみしめて、顔が溶けていく陽介君を見ていたのだった……。
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