ムシ女
☆☆☆

それからどこくらい時間が経過しただろうか?


陽介君はピクリとも動かなくなっていた。


実験室にある薬品のすべてを陽介君に浴びせた3人は疲れ切ったように椅子に腰をおろしていた。


「どうしてだ……」


そう呟いたのはお父さんだった。


どの薬品をかけても、陽介君は小さくはならなかったのだ。


これじゃあ、あたしの体が小さくなってしまった原因はわからないままだ。


「体質によるのかも」


あたしは苦し紛れにそう言った。


「例えば、あたしが女で陽介君は男だから反応しないとか」


体に薬品の影響を受けるのは人それぞれのはずだけれど、説明しながらも苦しい言い訳だと気が付いていた。


「そういえば、美衣ちゃんもいなくなったのよね」


疲れた表情を浮かべたお母さんがそう言った。


「え?」


あたしは驚いてお母さんを見た。


「あの地震の日に、美衣ちゃんも行方不明になったのよ」


「嘘でしょう?」


あの日、あたしは美衣と一緒にいた。
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