ムシ女
「とりあえず、ここにいて」


陽介君は机の上にあった本を片付けて、その上にあたしを移動させた。


「服は好きなのを着て。あ、その前にシャワー? どうしようか、お湯を持ってくる?」


「大丈夫だよ。ウェットティッシュがあったらそれで体をふくから」


本当はちゃんとシャワーを浴びて薬品を洗い流したかったけれど、これ以上陽介君に迷惑はかけられないと思い、そう言った。


「そうか? じゃぁ今はこれで我慢して」


陽介君はそう言って机からウェットテッシュを取り出し、あたしの前に本を立てて置いた。


目隠しにしてくれたようだ。


あたしは濡れた制服をぬぐと、体ごと包み込めるくらい大きなウェットティッシュで体を拭き始めた。


ベタ付いていた体がサッパリしていく。


今が6月でよかった。


部屋で全裸になっても寒くないもんね。


髪の毛も軽くふいて、陽介君が買ってくれた人形の服を着た。


少し生地がゴワゴワするけれど、文句は言っていられない。


人形の服はパンツや靴下もセットになっていたりするから、助かる。


「陽介君、ありがとう」


本の横から顔を出して着替えが終わった事を知らせる。


ベッドに寝転んで虫の図鑑を読んでいた陽介君が起き上がった。
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