ムシ女
イラスト
陽介君が舌打ちをしながらあたしの後始末をする様子を、あたしは机の上に立って見ていることしかできなかった。


昨日買ってくれたもう1つの服に着替えても、あたしの心は全く安心できなかった。


掃除が終わればきっとまたあの瓶の中に入れられてしまう。


そのために陽介君は念入りに掃除をしてくれているだけなのだ。


「あの……」


「なんだよ」


あたしが話しかけても、昨日のような笑顔は向けてくれなかった。


「あたし、瓶の中には戻りたくない!」


勇気を出してそう言う。


陽介君は呆れたようにため息を吐き出した。


「さっきも言っただろう。外には危険が沢山あるって」


「そうかもしれないけど、あたしは瓶の中なんて嫌なの!」


怖かった。


次に何を言われるかと思うと、声が出なくなってしまいそうだった。


だけど、あたしは勇気を振り絞ってそう言った。
< 36 / 155 >

この作品をシェア

pagetop