ムシ女
傷つける
あたしは瓶の中で立たされていた。


瓶の前では陽介君は一心不乱に何かを描いている。


いや、何かではない。


あたしはもう気が付いていた。


陽介君が今描いているのはあたしの似顔絵だ。


そしてあたしがどんな『ムシ女』に似合うかを考えている所なのだろう。


1時間ほど前に『そこに立ってろ』と言われてから、ずっとこのままだ。


時折体がふらついて座り込んでしまいそうになるのを、なんとか持ちこたえていた。


陽介君はあたしとスケッチブックとを交互に見ながらペンを走らせる。


作業が進めば進む連れて陽介君の鼻息は荒くなり、呼吸する音があたしまで聞こえてきていた。


かなり集中しているのがわかった。


その分、陽介君が本気だと言う事も理解できてあたしは逃げ出したい衝動に駆られた。


陽介君はあたしを『ムシ女』にするつもりだ。


あのイラストのように羽や針をつけて、人間の体を持つ『ムシ』を作る気だ。
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