ムシ女
あたしは思わず動きを止めて猫を見つめた。


黒猫は目だけ光らせながら、真っ直ぐこちらへ向かってくる。


机の下で姿が見えなくなったかと思った次の瞬間、黒猫は音も立てずにテーブルの上に飛び乗ってきたのだ。


そして、瓶の中のあたしをジッと見つめる。


瓶よりも大きなその体にあたしは呼吸をすることも忘れていた。


猫の口からは牙が2本見えている。


「にゃぁ」


鳴いた口から見えるざらついた舌。


それはまるで獲物を狙う猛獣のように見えた。


あたしは呼吸すら止めてジリジリと瓶の端まで後ずさりをした。


瓶にはコルクの栓がしてある、だからこの猫はあたしを攻撃することはできないはずだ。


そう、自分に言い聞かせた。


猫が瓶に一歩近づき、匂いを嗅ぎ始める。


あたしは自分の右足を見下ろした。


血の匂いが瓶の中にも立ち込めているのがわかる。


あたしはゴクリと唾を飲み込んで猫を見つめた。
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