ムシ女
「こんな大きなオブジェ、あったんだ」


あたしは瓶を見上げてそう呟いた。


それだけじゃない。


少し視線を遠くへ投げてみれば大きなパイプ椅子や大きなテーブルが見える。


そしてそのどれもが見覚えがあった。


すべて科学室にあったものたちだ。


「なんでこんなに大きなものたちが……?」


そう呟き、部屋の中をゆっくりと確認していく。


床はリノリウムで、キラキラと光って眩しい。


その一カ所に、落書きがしてありあたしは足を止めた。


床に書かれているクマのイラスト。


それは間違いなく、あたしはこの前科学の授業中に描いたものだった。


人の小指程度の小さな落書き。


誰にも気が付かれないだろうと思い、こっそり自分のマークをしるすのが好きだった。


あたしはしゃがみ込み、そっとその落書きに触れた。


小指ほどの大きさに描いたはずのクマは、今はあたしの足と同じくらいの大きさだ。


「どういう……こと……?」


世界が大きくなっている。


そう気が付いた。


ここはあたしが気絶をした科学室。


だけど何倍もの大きさになっているのだ。


混乱し、足元がぐらつくのを感じた。
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