ムシ女
無駄な体力を使ってしまったと思い、ペンケースから出て立てかけてある本に寄り掛かった。


少し休憩しよう。


そう思った時だった。


もたれかかっていた本がグラリと揺れた。


咄嗟にその場から離れるあたし。


しかし遅かった。


少しのズレによって本は次々と将棋倒しのように倒れていく。


ほこりをまき散らし、強い風が起こる。


次の瞬間あたしの体はフワリと浮いていたのだ。


蝶の羽が風を受けてあたしを飛ばしたのだ。


悲鳴を上げそうになり、両手でグッと口を押えてなんとか我慢した。


しかし、実際に生えているわけではない羽は、風がやめば落下していくだけだった。


あたしの体は机から離れた場所で急降下を始めた。


死が目の前に迫って来るのを感じた。


死ななかったとしても、骨折することは免れられないだろう。


そうなると、この部屋からの脱出も困難になる……。


一瞬、和の笑顔が見えた。


「百合花」


あたしの名前を呼んで、手を伸ばしてくれる。


「和!」


あたしは懸命に手を伸ばし、和の手を握りしめた……。
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