ムシ女
元々傷ついている肌にお湯を押し当てたため、しびれるような痛みが駆け抜ける。


「なんだよ、大げさだな」


ティッシュについているお湯自体はすぐに冷たくなっていく。


しかし、痛みは和らがなかった。


陽介君はあたしの背中をティッシュでゴシゴシとこすり、ボンドを無理やり引きはがそうとしている。


肌から少し浮いて来たボンドを指先でつまみ、一気に剥がした。


ベリベリという嫌な音が体内から聞こえて来るようだった。


皮膚が一緒に裂けているかもしれないと思えるほど、強い痛みを感じる。


陽介君の手から逃れようと爪を立てるけれど、今度は手の力を緩めることはなかった。


しっかりと体を掴まれたまま、陽介君はあたしの体からボンドを剥がしていく。


「案外しっかりくっつくんだな」


時折そんな事を呟きながら、あたしの皮膚をさするように撫でた。


その箇所から血が出ているのだと、陽介君の指先を見て理解できた。


「もう少しお湯が必要だな」


陽介君はそう言うと、ペットボトルのキャップにお湯をくんだ。


「やっ……」


咄嗟に身構えるが、逃げることはできなかった。


次の瞬間あたしの体には熱いお湯がかけられ、痛みと熱であたしはそのまま意識を手放したのだった。
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